世界にただ一つ、
“斑”が浮かぶ石。
唯一無二。
百年を超えても変わらぬ美しさ。
源平合戦、屋島の戦い。
那須与一が揺れ動く船の上の
的を射抜いたその海峡を、
「庵治石」を産む山はじっと見ていました。
この山は、修験道の聖地・五剣山。
空海が修行を終えたとき、
蔵王権現が姿を現し、
五振りの剣が天から降ったといいます。
この出来事にちなみ、
彼は「五剣山」の名を山に与えました。
その山麓で採れる、庵治石。
世界でも最高峰の御影石の一つです。
青みを帯びた石目に、
独特の斑点が浮かぶその姿は、
他にはない風格を湛えています。
その奥深い表情は、
一つとして同じものがなく、
すべてが唯一無二の美しさを湛えています。
なかでも、
高品質とされる「庵治石細目」は、
「斑(ふ)」と呼ばれる濃淡の紋様が
浮かび上がるのが特徴。
その表面は、
光の加減や見る角度によって表情を変え、
しっとりとした艶を帯びて、
まるで語りかけてくるかのよう。
長い年月、
瀬戸内の移ろいを
静かに見つめてきたこの石には、
深く美しい陰影が宿っています。
古来より、
庵治石は格式ある石材として
選ばれてきました。
平安の昔には、
京都・石清水八幡宮の再興に。
江戸初期には、高松城や大阪城の石垣に。
時を経て昭和以降は、
首相官邸の石庭、モニュメント、
彫刻作品としても用いられています。
時代を越えて受け継がれてきたその価値は、
誰もが認める「天下の銘石」。
まさに、想いを時の彼方へと運ぶに
ふさわしい存在です。
高く評価されるのは、
その美しさだけが理由ではありません。
庵治石の硬度は、水晶と同じ7度。
石材の中でも類を見ない強さを誇り、
彫刻された角は鋭く美しく、
容易に欠けることがありません。
細やかな彫刻が可能な、
粘り気のある緻密な結晶構造。
風雨や寒暖差にも強く、
長い年月を経ても変質しない
耐久性を備えています。
その耐久性と希少性から
「御影石のダイヤモンド」と称され、
憧れの存在であり続けています。
空海をはじめ、数多の修験者たちが修行し、
深い信仰を集めた五剣山。
庵治石には、
その霊地の静かな力が
宿っているのかもしれません。
刻まれた文字は、あなたの想いを、
遥かな未来へと語り続けるでしょう。
そして、ここに祈る時、
故人の優しい心と、
その思い出があふれてくるでしょう。
美しき石肌の、確固たる佇まいに、
時が優しくとどまっています。